配偶者保護のための方策

第二番目は、『遺産分割等に関する見直し』として、次の3項目を法律化しました。

 

1.配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示推定規定) (民法第903条4項関係) 
2020年7月1日施行

 

(1)見直しのポイント
この方策は、長期間婚姻している夫婦間で行った居住用不動産の贈与等を保護するためのもので、具体的には、婚姻期間が20年以上である配偶者の一方が他方に対し、その居住又は敷地(居住用不動産)を遺贈又は贈与した場合については、原則として、計算上、遺産の先渡し(特別受益)を受けたものとして取り扱わなくてよいこととしたのです

 

この改正の主旨は、このような遺贈・贈与というものは、配偶者の長年にわたる貢献に報いるとともに老後の生活保障の趣旨で行われるものであること、また、遺贈や贈与の趣旨を尊重した遺産の分割を可能にすることです。

 

(2)制度導入のポイント
改正以前は、被相続人が、配偶者に贈与等を行ったとしても、原則として遺産の先渡しを受けたものとして取り扱うため、配偶者が最終的に取得する相続財産は、贈与等がなかった場合と同じになり被相続人が贈与等を行った趣旨が遺産分割の結果にまったく反映されていなかったのです

 

例として
相続人が、配偶者と子供2人(長男・長女)
遺産が、居住用不動産(持分2分の1) 2,000万円(評価額)、その他の財産 6,000万円
配偶者に対する贈与が、居住用不動産(持分2分の1)2,000万円であった場合は、

 

※配偶者の相続の取得分を計算するとき
には、生前贈与分につても相続財産とみなされるため、
   
(8,000万円+2,000万円)×1/2−2,000万円=3,000万円

 

となります。最終的な相続財産の取得分は、

 

3,000万円+2,000万円(生前贈与分)=5,000万円となり、贈与があった場合とない場合とで差異がないことになり、被相続人の考えが全然尊重されない結果になっていました。

 

 

制度導入により、配偶者への居住の用に供する建物・敷地の生前贈与については、遺産の先渡しを受けたものとして取り扱う必要性がなくなり、先ほどの例で、配偶者の相続取得を計算しますと、配偶者への生前贈与分2,000万円は、相続財産に含まれないことになります。配偶者の相続取得は、
8,000万円×1/2=4,000万円となります。
最終的な配偶者の取得分は、
4,000万円+2,000万円(生前贈与分)=6,0000万円
となり、贈与がなかったときに行う遺産分割より多い財産を取得することができることになりした(被相続人の生前贈与の趣旨が生かされるようになった)。
   

 

 

 

この改正によって、婚姻期間が20年以上の夫婦であれば、生前贈与を受けた配偶者の生前贈与分は、相続財産とみなす必要がなくなりました。これによって、生前贈与を受けた配偶者は、改正前より多くの遺産を相続・取得できるようになりました?


遺産分割前の預貯金払戻し制度の創設

2.遺産分割前の預貯金払戻し制度の創設民法第909条の二関係
2020年7月1日施行

 

(1)見直しのポイント
相続された預貯金債権について、生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済などの資金が必要な場合は、遺産分割前であってっも、各相続人が、一定の範囲ではあるが払戻しを受けられる制度を創設しました。

 

(2)制度導入のポイント
改正前は、遺産分割が終了するまでは、相続人単独では被相続人の預貯金債権の払戻しが出来なかった

 

事実、平成28年12月19日最高裁大法廷決定により、
@相続された預貯金債権は遺産分割の対象財産に含まれることとなり、
A共同相続人による単独での払戻しができない。こととされています。

 

   

 

制度導入により
遺産分割における公平性を図りつつ、相続人の資金需要に対応できるよう、2つの制度を設けることとしました。
@預貯金の一定割合(金額の上限あり)については、家庭裁判所の判断を経なくても金融機関の窓口における支払いを受けられるようにする。
A預貯金債権に限り、家庭裁判所の仮分割の仮処分の要件を緩和する

 

   

 

制度導入後は、必要な資金であれば、共同相続人による単独での預貯金債権の払戻しが受けられるようになりました(ただし、金額の上限があります)。

 

 

 

この『遺産分割前の払戻し制度』の創設によって、葬儀費用等必要なお金であれば、相続人単独で、遺産の預金からお金を払戻すことが出来るようになりました、これは非常に助かりますね?
ただし、引き出せる範囲等決まりがありますので注意してください!


遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲

3、遺産分割前で、相続開始後の共同相続人による財産処分に関して民法第906条の2関係
2020年7月1日施行

 

(1)見直しのポイント
相続開始後に共同相続人の一人が遺産に属する財産を処分した場合に、計算上生ずる不公平を是正するために設けられたものです。

 

(2)制度導入のメリット
改正以前は、特別受益のある相続人が、遺産分割前に遺産を処分した場合に、不公平な相続の結果が出ていました。
例えば
・相続人    長男、長女
・遺産    預金 2,000万円
・特別受益 長男に対する生前贈与 2,000万円
特別受益を受けた長男が、遺産分割前に遺産(預金2,000万円)の内、1,000万円を密かに引き出してた場合
  
●長男の引き出しがなかった場合の相続分は
長男(2,000万円遺産分+2,000万円生前贈与分)×1/2−2,000万円(生前贈与分)=0円
長女(2,000万円+2,000万円)×1/2 =2,000万円
       
最終的な相続分は、
長男 0円+2,000万円(生前贈与分)=2,000万円
長女 2,000万円
となり、公平な相続が行われたことになります。

 

●しかし、長男の遺産の引き出しがあった場合の相続分は
長男の引き出しによって、遺産は1,000万円になってしまい
長男 1,000万円×(0/2,000万円)=0円
長女 1,000万円×(2,000万円/2,000万円)=1,000万円
       
最終的な相続分は、
長男 0円+2,000万円(生前贈与分)+1,000万円(遺産引き出し分)=3,000万円
長女 1,000万円
     
※長女の救済の方法の可能性としては次のことが考えられる
@長男が、密かに引き出した遺産1,000万円を遺産分割時の遺産として在していたものとする。
しかし、そのためには共同相続人全員の同意が必要になる(遺産を引き出した長男が同意するとは考えづらい)。
A民事訴訟によって、長男の引き出した1,000万円に対して、不当行為・不当利得による請求をする方法があるが、勝訴した場合でも、長女は
法定相続分(今回は500万円)の範囲内の確保に留まります。
長男 3,000万円−500万円=2,500万円
長女 1,000万円+500万円=1,500万円
    

 

制度の導入により
処分された遺産(例の場合、預金)を遺産分割時の遺産に組み戻すことについて、遺産を処分した以外の共同相続人(例の場合、長女)の同意があれば、処分者(長男)の同意を得ることなく、処分された遺産を遺産分割の対象に含められることを可能にしました。
・長男の相続分
1,000万円(遺産・預金額)+1,000万円(引き出した金額)+2,000万円(生前贈与分)×1/2−2,000万円(生前贈与分)=0
0円+2,000万円=2,000万円
・長女の相続分
1,000万円(遺産・預金額)+1,000万円(引き出した金額)+2,000万円(生前贈与分)×1/2=2,000万円
長男・長女は、最終的な相続取得額が各2,000万円になり、公平な遺産分割が実現できるようになりました。

 

 

 

この改正によって、特別受益を受けた相続人が、不当に遺産を処分した場合でも、他の相続人が不公平な遺産分割を受けるようなことはなくなりますね!公平な相続が一番です!